学生だった時、ある友人が突然、僕を訪ねてきて「頼むから金を貸してくれ」と言った。
実家に急な弔い事が発生し帰郷する費用が必要だと言う。
スポ-ツバッグに沢山LPレコ-ド(そういう時代だった)を詰め込んできて
「これ担保に置いて行くから」
と言った。
「そんなに必要なら それ売ればいいじゃん」
私が そう言うと、
「売りに行ったんだけど 足元みて安い値段しかつけないんだよ。 でも、これプレミア物ばかりだからホントは売りたくないんだ。 今じゃ、簡単に手に入らないヤツばかりなんだぜ」
とりあえず、バイト料が入ったばかりだったので貸したのだが…
晩になって、どんなレコ-ドなんだろう…と バッグから取り出した順にステレオにかけて聴いてみた。
その中の一枚が
「レッド・ツェッペリン Live in Europe」
(確か そんなタイトルだったと思う。 自信無し)
私は それまで基本的に「ロック」というジャンルの音楽が苦手だった。
深夜ラジオに頻繁に流れるぐらいヒットした曲なら知ってるし、好きな曲もあるが 自ら好んで好きなア-ティストと呼ばれるグル-プも無かったし、興味もなかったのだ。
「でも、たまにはいいか…」
そう思って本を読みながら かけて聴いていたら 流れてきたのが
「Stairways to Heaven(邦題:天国への階段)」
だった。
その時の事を 良く覚えている。
読んでいたのは横溝正史の「獄門島」で スト-リ-に狙いすました様なBGMとしてマッチした。
そして、エンディングのリ-ド・ギタ-のアドリブ・ソロが とても気に入ったのだ。
後で聞いた話では 通常、特殊な(ネックが2本だったか 12弦ある)アコ-スティック・ギタ-で演奏するのだが、そのライブの時はエレキ・ギタ-でアドリブ・ソロを弾いたのだそうで そういう意味で そのLPは貴重な一枚だったそうだ。
それまで「レッド・ツェッペリン」なんて まったく知らなかったのだが、そして それ以外の曲には なんの興味も無かったが、その曲だけは何度、繰り返しても心地良く聴ける一曲だった。
で、なんでだったのか 今でも、自分でも判らないんだけど その曲を弾いてみたく、弾けるようになりたくなった。
それまで私はギタ-なんて弾いた事が無い。
自慢じゃ無いが 音楽的素養は遺伝子的に欠落していると言って間違い無い。
でも、どうしても その曲を弾ける自分になりたくなってしまったのだ。
ギタ-が上手い友人に そう話して、教えてくれるように頼んだら
「アホか?」
って顔をされたけど、数日後 質屋で安く購入したギタ-を持って 再び現れた私を見て
「本当かよ?」
と驚かれた。
おおよそ3ヶ月かかったが、私は「Stairways to Heaven(邦題:天国への階段)」をギタ-で弾くテクニックをマスタ-した。
しかし、それ以外の曲を弾く事には全く興味が沸かず、ギタ-で弾けるのは その曲と 数年後に再び「弾ける様になりたい病」が発症してた 高中正義の「ブル-・ラグ-ン」という2曲だけである。
自分でも 本当に よく判らない「変わり者」である。
しかし、3ヶ月かけて身につけたテクは 身体が覚えているんだね。
娘の高校の文化祭の時に 娘のクラスがやっていた喫茶店でコ-ヒ-を飲んでいたら、喫茶店の片隅にこじんまりしたステ-ジをあつらえて そこでギタ-やサックスの演奏をしていたらしく 無造作にエレキギタ-が置いてあった。
娘から持ち主に断ってもらい 思い出しながら弾いてみたら 弾けた。
その様を見ていた娘や 娘の友達が ちゃんと弾いて見せろと騒ぎ、ギタ-をアンプに繋いでセッティングされ つい、調子に乗った私は やってみた。
弾けた。
娘どころか 一緒に行った嫁が驚いていた。
快感だった。
人間、その気になればなんとかなる… のである。
たった1曲だけであれば 練習さえすれば どんなに難しい曲でも弾けるようになる。
同じ様に 私の部屋には フル-トとサックスが 実は密かにしまってある。
フル-トは 角川映画「悪魔が来たりて笛を吹く」のテ-マ。
サックスとフル-トで 渡辺貞夫の「カリフォルニア・シャワ-」という曲しか弾けない。
この先、演奏する機会があるとすれば 娘の結婚式に嫌がらせで余興タイムにオンステ-ジでもやろうか…って時ぐらいのもの。
実を言うと 最近、また「弾ける様になりたい病」がウズウズしている
今度は ピアノで「世界の中心で愛をさけぶ」のサントラ版にある「亜紀と朔」という曲なのだが…
我が家にピアノを置く場所が無い。