喫茶「職安」の常連客の一人に Oという弁護士がいた。
Oさんは もう、その当時でかなりの年配だったと思う。
頭は 真っ白の白髪頭で顔をも皺だらけで いつもニコニコしていたから 皺なのか目なのか判らない グチャグチャな顔だった^^;
このOさんも「屯田兵の御隠居」達の仲間で 法律的な顧問…といった存在だった。
学生だった私達には この「弁護士」という資格を持ったOという人物は もの凄く奇異な存在であり、ある意味 憧れであり、「屯田兵の御隠居」達の仲間の中で 最も「世の中の現実」というものを私達に教えてくれた人でもあった。
今だから ハッキリ言うが、このOさんは もの凄く悪徳弁護士だった。
依頼人を金の有無で差別(区別)し、金のためなら180度意見を変えるのが当たり前…という感覚の持ち主だった。
ある時、喫茶「職安」のママが ホステスだった時の後輩が喫茶「職安」に訪ねてきた時の事。
後輩ホステスは 客との不倫が客の奥さんバレて訴えられた…と ママにボヤきに来たのである。
その話を たまたま居合わせた 運送屋のN専務とO弁護士が黙って聞いていたのだが…
最初、O弁護士は 後輩ホステスに
「そりゃ アンタが悪い。
訴えられても仕方が無いわな、
慰謝料を減額してくれるように頼むのが関の山だわ…」
そう言ったのだ。
ところが、不倫相手の男が ある道内企業の中でもわりと大きな会社の社長の息子で 将来的には その会社を継ぐであろう2代目だと判った途端、
「そりゃ懲らしめてやらねばイカン、
不倫云々は 女だけの責任じゃ無い。
男の方の責任が重いのだよ…」
と 180度違う事を言い出し、結果 「結婚詐欺」の被害に遭った…みたいな話にして 逆に相手男性を訴えたのである。
ハッキリと言っておく。
「結婚詐欺」なんて事実は無い。
後輩ホステスも 最初から、そんな事をされたなど一言も言って無い。
けどね、「相手側が金持ち」と聞いた途端 O弁護士にかかると「何でもアリ」状態になり、ちょっとでも主張できそうなネタをみつけると ドンドン話を膨らませるのである。
結果的に後輩ホステスは 慰謝料を払うのではなく 逆に取る事に成功した。
なんで そうなったか…というと 後からO弁護士が膨らましたネタの言い分を裁判所が何故か認めた…というのが理由の大半、そして もう一つ、隠された真実は 相手側の弁護士が O弁護士に個人的に頭が上がらない格下だった…という事にある。
O弁護士は ある大学の法学部OBの中で長老格で 日弁連でも それなりの肩書きを持つ人物でもあった。
結局、日本の社会は なんだかんだ言って学閥・閨閥などがモノを言う縦社会が存在する… それの歩く見本みたいな人だったのだ。
相手側の弁護士を喫茶「職安」に呼び出し
O「~という条件で示談で どうかね?」
そう言うO弁護士に 相手側の弁護士は
相手「O先生が そう仰るなら それで依頼人に了承して貰います」
O「頼むよ、その変わりと言っちゃナンだが
この前、君が言ってた国選弁護の件 考えておくから」
相手「わかりました よろしく御願いします」
これは 生真面目な方に言わせれば 弁護士の倫理規定違反行為である。
しかし、現実には こういう事が往々にして行われる。
損害保険会社が保険契約に基づいて行う 交通事故の示談交渉も 実際の現場では
A損保「この件は4:6の過失割合で結構です。
そのかわり、中央区の方で ウチの顧客Cさんと
そちらの顧客Dさんの間で揉めている事故の方何ですが、
5:5の線で折れてくれませんか?」
B損保「う~ん それじゃ勘定が合いませんねぇ…
出来れば 南区のEさんとFさんの件を6:4にする…ってのも
含めてくれませんか?」
なんて話し合いが行われていたりするのと同じである。
そういう会話のやり取りを見て ホント(?)の弁護士の姿や もしかしたら断片的なのかもしれないが ある種の「現実」を17才の時に悟った私だった。
さて、バイト少年達が夏休みで 昼間から喫茶「職安」に入り浸っていた ある時の事。
大学生を一人連れて O弁護士が喫茶「職安」に現れ、暇そうにしていたバイト少年達に こう言った。
「オマエ達の中で カメラいじるのが好きな奴 誰かいないか?」
後に「もの凄く気の弱い弁護士」と呼ばれる少年は 心霊写真を撮るのが趣味の奴だった(『「世界の中心で愛をさけぶ」 写真』参照)から 喜び勇んで飛びついた。
その後の話を要約すると
O弁護士は ある資産家に嫁いだ奥さんから
「旦那の浮気癖に愛想が尽きたので 離婚しようと思う…」
という相談を受け その証拠を集めるために 運転免許を持っている大学生と助手兼カメラマンとして「もの凄く気の弱い少年」の二人に ワゴン車と高性能なカメラ一式を用意して 離婚相手の旦那を探偵させたのである。
「もの凄く気の弱い少年」は 数日もかからぬ間に ラブホテルから愛車の助手席に浮気相手を乗せて出るところを鮮明に捉えた写真の撮影に成功し、ほどなく 高額の慰謝料と共に離婚は成立した。
それ以来、「もの凄く気の弱い少年」は 貸与されたカメラ一式を使いこなし O弁護士の裁判に必要な証拠写真を撮り歩くのが 彼にとって最も専門の趣味を兼ねたバイトとなり、後に 大学在学中に司法試験に間違って合格してしまった「もの凄く気の弱い少年」はO弁護士の許に弟子入りし今日に至るわけで、「もの凄く気の弱い弁護士」が とてつもなく「悪徳弁護士」である事は言うまでも無い。
そして、この時 運転主役のバイトを引き受けたYという大学生は 大学を卒業して間もなく 一度は就職した会社を「5月病のため」という理由で 4月の半ばに退職し、探偵事務所を開業して現在に至り、運命のイタズラか さもなくば神の気まぐれで正式な弁護士となった「もの凄く気の弱い弁護士」とは 現在でも いいコンビ関係にある。
その両者の開業資金を援助したのは 口入屋のS氏と運送会社専務のN氏であり、資金の元手は「屯田兵の御隠居」の遺産からである事も言うまでも無い。