常連の誰からもバイトの声がかからず、喫茶「職安」我々、バイト少年達はコ-ヒ-を飲みながらタバコを吸っていた。
(えぇ、その当時は高校生でした^^ でも、既に1日1箱 吸ってました^^;)
そんな時、ふと、テキ屋だったHさんが我々に
「オマエ達は 将来、どんな職業につきたい…とかって夢はあるのか?」
そう聞いた。
「腕力しか取り柄のない歯科医」や「易者の様な診断しか下さない2代目開業医」は 実家の稼業を継ぐ、もしくは準じる…という考えがあり、「もの凄く気の弱い弁護士」は O弁護士に可愛がられていくウチに 自分も弁護士を志すと言う。
「一級建築士の資格を持った詐欺師」や「アキバ系研究員を束ねた某国立大学理工学部教授」は もう既にじぶんが理数系に進学する事を決めてはいたが、具体的に ~な職業とまでは決めていなかった。
そして、私は 正直に言えば「小説家になりたい…」と思っていた。
しかし、現実から言えば 私は文系では無く、理数系が得意だった^^;
すると、Hさんは
「へぇ ブタネコは 小説家になりたいのか? ふぅん…」
そう言った後、
「なぁ、例えば ”雨が降る”様子を文章で表現する方法を オマエ(私)は いくつ、知ってる?」
「たとえば、”粛々と雨が降る…”、”シトシトと雨が降る…”、”風と共に横殴りに雨が降る…” こういう風に 同じ雨という天気でも 降る様子は違うよな? 雪や風や陽射しなんかも いろんな情景がある。 それを、オマエは どれだけ知っていて使い分ける事が出来るかな?」
と、続けて言った。
”駸々と雪が降る…”、”燦々と陽が差す…”とか、”肌に触れると心地の良い風…”、”空気の存在が実感できる程の風圧で 歩けないほどの向かい風…”なんてのも そう。
「こういうのは 会話じゃ ほとんど使わないから、きちんと使い分けられる人は少ない。 けどね、小説では 目立たないけど こういう表現が巧く使い回されてこそ、読者は情景をイメ-ジしやすくなるから 良い作品、面白い作品と呼ばれるには 必要不可欠な知識であり、テクニックなんだ…ってな 昔、銀座で飲み友達だった作家が言ってたんだ」
ちなみに、その作家とは 名前を言えば 大抵が「あぁ… あの人」と知られている有名な人である。
そう言われて 私は う~ん唸ったまま、その雨が降る様子を いくつも思い浮かべていたが、自分自身でも 思い浮かべる事が出来る数が少ない事に思い知らされた。
数日後、Hさんは ダンボ-ル箱4つを若い衆に 喫茶「職安」に届けさせ、
「中に入っている本は 全部、俺が読んだ本だけど オマエ(私)にやる。 この前、言ったような言葉の知識を得る早道は とにかく、沢山の本を読むことだからな…」
4つの箱の中味は ジャンルごちゃ混ぜの本ばかりだった。
その頃の私は 実際に貪るように本を読んでいた時期でもあったので そのプレゼントはありがたかった。
だから、いつも暇を見つけては その貰った本を読んだのだが、ある時 ふと、ある事に気づいた。
と言うのは どの本も、表表紙や裏表紙を開くと 必ず、

という付箋のようなの物が貼ってあるのだ。
で、ある時 Hさんに その付箋の事を聞いてみた。
すると、
「あぁ、それはな 刑務所に服役していた時に 女房から差し入れして貰った本だからだよ。
刑務所の中で読むには 必ず、許可を貰って その許可証が その付箋なんだ。
刑務所の中って娯楽と呼べるのは 同房の連中とのお喋りか その本みたいに差し入れて貰った本を読む事。
だから、随分 読んだぞ… 俺は」
と言った。
喫茶「職安」に集う常連客は 皆、雑学の帝王みたいな人ばかりだったが、そんな彼等の共通点は とにかく、皆 読書好きで いろんな本を読んでいる人達ばかりだったが、そんな中でも Hさんは ずば抜けた読書家だった。
おそらく、バイト少年達の中で 最も、読書好きだったのは私だったから、いつも読み終わった本を
「こりゃ 駄目だ」
とか
「これは なかなか面白かった」
と、極簡単な寸評をつけて 私にくれたものだった。
今でも、私の書斎の棚には Hさんから貰った本の中で
「こいつは 面白かった」
と、評された本が並んでいる。
読んでみると、確かに、面白かった。
しかも、20数年経った今だから あらためて その本を見ると、当時は デビュ-したてで無名に近かった作家の本だったのだが、今では 皆、売れっ子作家になった人ばかりである。
実際は、たまたま偶然だったのかもしれないが、私には 偶然とは思えないのは それだけ、Hさんの眼力が優れていたんだと思うのだ。
と言うのは、当時は ベストセラ-とされ、人気を博した本や作家であっても Hさんが
「ありゃ駄目だ つまらん」
その当時、そう言った作家で 今でも新作を書いている人は ほとんどおらず、希に新作を書店で見かけても 全く、面白いとは言えない代物でしかないからだ。
この”本”に限らず、Hさん達 常連客の もうひとつの共通点は いろんなものを見抜く”眼力”だったと思う。
「こいつは 嘘ついている」
「こいつは 信用できない」
そういう風に 人物を見抜く目などは
「超能力ですか?」
と、聞きたくなるぐらいに凄かったのだが、そんな中にあって Hさんは よく、面白い表現を喋っていた。
「あの野郎は ”くすぶり”だから付き合わない」
この”くすぶり”と言う言葉は 基本的には”博徒”(博打うち)系のヤクザの言葉である。
「何をやっても 巧くいかない」
「思い通りに事が運ばない」
「賭け事が 常に裏目になる」
人間、誰しも不運が続いたり、裏目が続いたりする事がある。
そういう状態の人の事を 彼等は「くすぶった奴」と言う。
そして、
「仲間の中に”くすぶった奴”が混じると 計画が破綻する」
「物事が悪い方向にしかいかない」
と言い、さらに
「”くすぶり”は病気みたいに 他人に感染るから 近づくな」
とも言う。
「今度こそは…(勝つ)」
と、競馬やパチンコなど ギャンブルにズルズルと負け続ける状態の事を指す。
「くすぶっちゃった奴はよ ”今度こそ”って どんどん深みにハマって 気づけば、戻れない状態のドン底になる。 だから、俺 もしかしてくすぶりかけてるかな?って思った時は しばらく、何もしないのが 一番の対処法なんだ…、でも、くすぶりは 自分がくすぶってると思わないし、認めないから 救いようのないとこまで行っちゃうし、周りの人間も 巻き込まれて 引きずり込まれちゃうんだ…」
と言うのが Hさんの言葉。
そのHさんが 最後に遺した言葉は
「俺も とうとう くすぶったぜ…」
その事については また、後日 語ることにする。
喫茶「職安」って、本当に人生劇場の様な感がしますね~。
人の世の表も裏も嫌と言うほど見てきた方々の、集う憩いの喫茶だったんでしょうね。
小説を読者におもしろく見せるテクニック、いつも何気に読んでますが、言われてみれば、なるほどな~なんですよね~。
私もまだまだ暇な時間を作って、読書に勤しまないとw
何をやっても裏目裏目って、仕事上でもこういうことって多々あるような気がします。
ということは、私ってくすぶってるのか?
でも、賭け事一切しないし、慎ましやかに生活してるから、何事もないのかな~ヾ(´▽`;)ゝ
くすぶり・・・次回に期待してますd(>_・ )グッ!
>Wen さん
コメント どもです^^
近日中に 続きを掲示します。