2005年06月20日

●テキ屋だったH(別巻)


今、皆が当たり前の様に使用している5百円硬貨が普及される同時に 入れ替わるように姿を消した5百円札が 不意に机の整理をしていたら一枚出てきた。




現行の紙幣が流通されてから 数えてみると、案外、年月が過ぎており、


「一万円札って 聖徳太子が肖像だったんだよ」


と言っても


「何、それ?」


という世代が増えている。


今の福沢諭吉や夏目漱石も 間もなく姿を消すとか消さないとか… 5千円札の新渡戸稲造は 一足先に 樋口一葉と交代までしている。


それが、当たり前の世代に 5百円札の話をするのは いささか気が引けるが、まぁ 今回はお許し頂きたい^^;


と言うのも 私にとって、今までの人生の中で 一番、思い出深い貨幣と言えば その5百円札なのだ。


高校時代、私が入り浸っていた喫茶「職安(通称です)」の常連客は 皆、羽振りのいい人達ばかりだった。


ススキノでのも屈指と言われた高級クラブで売れっ子だった 喫茶「職安」のママの許に、毎夜、通っては 高額な請求にビクともしなかった懐の持ち主ばかりだった事を思えば それは推して知るべしと思う。


そんな中でも 元テキ屋のHさんは いつも大人の手の親指よりも太い厚さの パンパンに膨らんだ札入れを懐に入れて持ち歩く人だった。


そんなHさんに 私は 一度だけ


「ねぇ Hさん、その財布の中 いくら入ってるの?」


と、好奇心丸出しで聞いた事がある。


するとHさんは


「他人の懐を気にするなんざ 狭い了見だなブタネコ、でも、今回ばかりは 後学のためにコソッと教えてやるよ」


そう言って 財布の中味を見せてくれたのだが…


正確な数字は覚えていないが 2百数十万が入っていた。


その金額に 素直に「スゲェ」と思ったが、同時に 札入れの中の札の入れ方に もの凄く好奇心が湧いた。


と言うのは 財布の中に入っていたのは 帯封のついた新札の一万円(つまり、それで百万)それと 一万円札9枚を もう一枚で横に挟み込む様に10万円の束にした格好にしたものが十数束 そして、バラの一万円札が数枚…という感じだったのだ。


その時、たまたま 店の中には ママと私とHさんしかいなかった。


Hさんは それを確かめるように 一度、店内を見回した上で


「良い機会だから オマエにヤクザ的”男”の考え方を伝授してやるよ」


そう言って、暇潰しの 即席の講習会が始まったのだ。


その時に Hさんから聞いた話をまとめると 以下の通りである。


その時に 財布の中には2百数十万の現金が実際に入っている。


しかし、余程の事が無い限り その中で使って良いお金は百数十万までで 新札帯付きの百万は金であって金でない、つまり「お守り」なのだという。


Hさんが言うには その時、財布の中に幾ら入っているかで 人間は、振る舞い方や 身のこなしが変わるのだそうである。


極端な例を挙げれば 残り僅かな金額しか持ち合わせていないと


「帰りの電車代 足りるかな…」


とか、


「あと、~円しか残っていないから 食べたいけど我慢しよう」


という思考になりやすい。


ところが、その時に 財布に”お守り”の一万円が入っていれば、帰りの電車代に気を病む事もなく、同じ 食べるのを我慢するにしても


「”お守り”の一万円を いざという時に使用すれば こんなもの いつだって喰える。 だから、今 わざわざ食べなくたっていいや…」


という感じで 同じ我慢の様に見えても ストレスの残り方は全然違う… つまり、気持ちの上で「ゆとり」が出て、それが他からは「余裕」に見えるのだと言い、その雰囲気が 目に見えないオ-ラとなって パワ-になるのだという。


問題は その”お守り”の額だが それは ひとそれぞれ分相応の額があり、全財産を現金化しても 百万にもなりにくそうな人が 百万円を”お守り”に入れていても それは下手すると


「この財布 落としたら どうしよう…」


って具合で 逆に落ち着きが無くなり逆効果となる。


だから、その時 Hさんに


「今の 自分だったら いくらぐらいが”お守り”の額ですかね?」


すると


「5千円が いいとこかな」


そう言って Hさんは笑った。


それ以来、私は いつも札入れに百万円の”お守り”を入れて歩く大人になろうと夢を見た。


だが、現実は甘くなく、社会人に成り立ての頃は


「俺、将来 自分の家を持てるのかな?」


なんて 遠くを見つめる時もあったし、中学の時から付き合っていた 今の嫁にプロポ-ズするにしても 


「生活していけるのかな…」


という想いが いつもつきまとっていた。


そんな私が結婚し 子供も産まれた頃、当時の水準では高い方だったが 私の月のお小遣いは3万円だった。


私は その小遣いを嫁から貰うと その3万円を すぐ最寄りの銀行で60枚の5百円札に両替し、1日2枚(1000円)が自分の限度額、ただし、出来るだけ倹約して 1枚だけの使用に留めて 残りの一枚は貯金しよう… そんな生活を過ごしていたのだが、そんなある日の事である。


いつもの様に 貰った3万円を持って銀行に行き、両替機に入れたところ


「ガチャン」


と異音が発し、機械から出てきたのは 60枚の5百円札では無く、60枚の5百円玉だったのだ。


この日の数日前より 5百円札の廃止と硬貨の流通が始まっていたのである。


これ、やってみると判るけど 60枚の5百円玉を小銭入れに入れようとしても かさばるし、案外 重い。


私は両替機から出た60枚の5百円玉を持って そのまま、近くの窓口に行き、理由を言って5百円札に取り替えて貰ったのだが…


個人的な思い入れかも知れないが 同じ5百円でも 札と硬貨では なんか価値観が違う様な気分になった。


一瞬とはいえ、60枚の札の厚みを感じるのも 小市民的喜びだった。


けれども、両替機から硬貨が出てくる「ガチャン」という音と共に それまでの私の価値観や いつのまにか、ネガティブになっていた気持ちも「ガチャン」と壊れた。


「こんなんじゃ いつまでたっても 札入れに百万円の”お守り”を入れて歩くような大人にはならんな…」


そう思う様になったのだ。


会社勤めを辞めて 独立する。


そう決心するに至るには いろんな紆余曲折や 他人が聞けば呆れるような… でも、私にとっては大きな理由となった いくつかの出来事がある。


その5百円硬貨も 出来事の一つだったのだ。


机の中から出てきた5百円札が いかなる理由で そこに入れてあったのか 恥ずかしながら、全然 覚えていない。


しかし、不意にそれが現れた今日の出来事は 私に


「初心に戻れ」


と、誰かがアドバイスしてくれた様な気がしてならない。


なので、ここに書き留めておく事にする。




記述者:ブタネコ | 掲載日時:2005年06月20日 23:44 このエントリをlivedoorクリップに追加 このエントリーのlivedoorクリップ被リンク数 このエントリーを含むはてなブックマーク このエントリーのはてなブックマーク被リンク数
ブログ・ランキング

 気が向いたら…で結構です。^^;

 この記事への御駄賃がわりに、願わくば下のバナ-のいずれかを クリックしていただけると嬉しいです。^^

  (全部、クリックしてくれると もの凄く嬉しいのは事実です。^^)

BLOOGランキング ブログランキング・にほんブログ村へ Blog Ranking くつろぐランキング 人気映画・TVBLOG ブログ王ランキング BlogPeople「自分のこと」部門にクリック
コメント

ブタネコさんへ
初めてメールします、500円札は青っぽい岩倉具視翁でしたね、僕の思い出の札は赤っぽい板倉退助翁の100円札です。(年齢は当然ブタネコさんよりは上です)
僕の出身はブタネコさんにも少なからず縁のある呉です、安芸門徒という言葉もあるように我が家もご他聞にもれず熱心な浄土真宗門徒でした。月に何回は命日がありその都度坊さんが読経に来ていました、その時のお布施が300円でした、お袋は硬貨だとありがたみがない、やはりお札でないとと言うことでせっせとお札集めに精を出し万単位で溜め込んでいたのを思い出しました。何時まで経っても100円のお札で坊さんもがっかりしたでしょう。因みにその坊さん、僕の楽しみにしていたチョコのお供え物を持って帰ったので50年近く経った今も未だに恨んでおりブタネコさんのN脚本家を嫌う以上に僕は嫌悪しておりました、すでに鬼籍の人ですがね。

コメント by タンク | コメント受信日時 : 2005年06月21日 19:44

初めて拾って交番に届けたお金が500円札でした。

半年経って持ち主が現れず(現れるわけないかw)警察署に取りにいったら、500円玉でのお支払いでした。
その時は、なんか損したような気持ちになった記憶が鮮明に蘇りました。

「帰りの電車代 足りるかな…」
とか、
「あと、~円しか残っていないから 食べたいけど我慢しよう」・・・

今現在の私です_| ̄|○
通常の所持金は千円くらいですΣ(^∀^;)

コメント by Wen | コメント受信日時 : 2005年06月21日 22:37

>タンク さん

コメントありがとうございます。^^

百円札も覚えております^^;

そして、我が家も 信心は全くありませんが、
「浄土真宗門徒」です。(お東ですが)

コメントを拝読していて とても懐かしく思い
ました。 今後も どうか忌憚無く コメントを
お寄せいただけますと幸いです。

どうか、宜しくお願い申し上げます。


>Wen さん

なんでなのでしょうねぇ…

札と硬貨じゃ 同じ500円でも価値観が変わり
ましたよねぇ…^^;

コメント by ブタネコ | コメント受信日時 : 2005年06月22日 00:46
コメントしてください




保存しますか?

(コメントにはHTMLタグを使わないで下さい プログラムがスパムと判断して受け付けない可能性があります。)