1979年に公開された映画「地獄の黙示録」(監督:フランシス・コッポラ)と言えば 戦争映画の名作と評価する人は多い。
ただ、この頃の戦争映画は とても難解なものが多く、もうひとつの雄を挙げれば「戦争のはらわた」というサム・ペキンパーの作品。
この二つの作品に共通して言える事は ただ、物語を画面だけ観て楽しむのではなく、歴史的な背景、政治的な背景、人物の深層心理など そういった部分にいろんな考察を行い、それぞれの意見を交わして楽しみ合う そんな話のネタにするには充分すぎるほどの材料だった…なんて事があるように思える。
特に、この「地獄の黙示録」はベトナム戦争が題材で 劇中でカーツ大佐(マ-ロン・ブランド)が語る台詞の多くには ベトナム戦争における欺瞞、それを米兵であるカーツ大佐に語らせ、ウィラード大尉(マーティン・シーン、チャーリー・シーンの実父)の目や耳を通して観客に疑似体験をさせる。
ただ、初回に公開された版では 物語が詰め込み過ぎなのか、さもなくば端折り過ぎなのか映像では表現されておらず、観る側が自己解析して補完する必要があったから 余計に話題のネタとなるのだが…
2001年に「地獄の黙示録・特別完全版」として合計53分もの 当初はカットされていたシーンを追加したものを公開した時、それまで20年間 ファン達の間で交わされた色々な論議の多くに結論や、修正や、新解釈を行う機会を与えたのは記憶に新しい。
この作品は判りやすく言えば ベトナム戦の最中に戦場深く潜入していたはずの
カ-ツ大佐が部下を殺して行方不明になり、その後、奥地で原住民を率いて王国を称し、ゲリラ活動を行っている事を知った軍が
ウィラード大尉に調査の上で場合によっては逮捕・もしくは射殺せよと命令を下す。
この時、命令を下す一人 ルーカス中佐が
若かりし頃のハリソン・フォードだと知ってる人が少ない。^^;
ウィラード大尉は その命に従い、数名の部下と共に
哨戒艇で河を上り奥地へと向かうのだが、川を遡っていくに従い ベトナム戦における意義や米政府への疑問が どんどん膨らんでいく… と言うのが本筋なのだが、ところどころのエピソードが それぞれ独立してひとつの作品化しているため いつのまにか本筋を忘れてしまう。^^;
特に
キルゴア中佐(ロバート・デュバル)が登場する騎兵連隊のヘリ部隊が暴れるシーンは
キルゴア中佐が命じて 機外スピーカーで流されるワグナ-の「ワルキューレの騎行」は映像と見事にシンクロし…
参考記事:『ワルキュ-レの騎行』
村を焼き払うシーンの圧巻さが 多くの観客に深い印象を与え 「地獄の黙示録」と言えば「あぁ、あのヘリの凄い映画ね」なんて言うのが殆どになってしまった感があり…^^;
単純に戦争映画として楽しんだ人は 物語のベースとなる本筋よりも キルゴア中佐の登場するヘリ部隊の攻撃シーンでのみ楽しむわけで、
「自分のはらわたを押し込めるほど勇敢なヤツになら、
いつでもおれの水筒の水を進呈しよう」
と、言っておきながら、部下から「サーファーのランス・ジョンソンがいます」と聞いた途端、水を与える事なんかコロッと忘れる。^^;
「おまえが(地図で)示して村はかなりヤバイぞ。
かなりの砲で武装していて、何度か部下が撃墜されている。」
と、言っておきながら、部下から「そこには 6フィートくらいの素晴らしい波が来ますよ」と聞いた途端、
「何で それをもっと早く言わないんだ?
この糞まみれの国に良い波なんか無かったぞ
畜生、6フィートの波か…
俺達は第1騎兵師団の空中騎兵だ。
あそこを占領して好きなだけ遊んでやる」
それを聞いて慌てて部下が「しかし、あそこは敵の拠点があり本当に危険な場所で…」と諫めても
「ベトコンにサーフィンの何が判る?」
と、無茶を言う。
挙げ句の果てが、戦闘中に上半身裸になった中佐を止めようとする部下に
「貴様にサーフィンの何が判る? ニュージャージー出身だろうが」
「俺がこのビーチでサーフィンをしても安全だと言ったら、安全なんだ」
と、敵からの迫撃砲弾が落下・炸裂する中で 一人、仁王立ちして叫ぶ
戦場の狂気とでも言うべきキルゴア中佐の 数々の台詞は、当時としては意表を突かれ、後の「フルメタルジャケット」に登場するハートマン軍曹と並んで 彼らの台詞は後々へと語り継がれる。
さて、2001年に「地獄の黙示録・特別完全版」として追加された合計53分のシーンとは? と言う部分に関して DVDのチャプター・メニューに親切なコメントがあるので それをそのまま表示してみる。
で、大別すると 追加されたシーンは4つある。
まず、チャプター10~13で ここでは村を焼き払った後のキルゴア・エピソードであり、村を焼き払っている最中にウィラードと部下は 執拗にサ-フィンに拘るキルゴアに付き合わされるのを怖れて本来の任務に戻るべく哨戒艇に乗って出発する。
その際に
ウィラードは キルゴア愛用のサーフ・ボードを盗み、それを後々までキルゴアは部下のヘリを派遣して
と捜索させる…というエピソード。
次に、
前線の補給所に プレイ・メイト(プレイボーイ・ガールズ?)が慰問に訪れるシーンがあるが…
チャプター20で追加されているのは
上の慰問ショーの際に暴徒と化した兵隊達から逃げる様に飛び去ったプレイボーイ・ヘリが 雰囲気的に、前線の救護所だったと思われる放置された場所にあり、そこでマネージャーらしき人物とウィラードはヘリの燃料(哨戒艇もヘリと同じジェット燃料を使用している)2缶と交換に 部下達にプレイ・メイトを相手に2時間遊ばせる事を取り引きする。
そこで、本物だと思っていたプレイメイト達が実は偽者と判り、前線での慰問事情などの兵からの想いと 国からの思いの違いを知る事になる。
そして、3つ目の追加は チャプター24~27までの「フランス人の農園」と呼ばれ、とかく論議を呼んだエピソードである。
これは 基本的にベトナムとは元々、フランスの植民地だったが、民族独立運動の結果、南北に分離し、南ベトナムが内戦化、その共産化を恐れた米国が介入したのがベトナム戦争のプロローグと言う事を ちゃんと知ってないと このシーンの意味は理解できない。
公式にはベトナム戦争が始まって間もなく、植民地時代に支配者層として君臨していたフランス人はベトナムから退去していた…という事になっているが、一部は 傭兵を警備役に雇って そのまま居残ったという事実もある。
そんなフランス人支配者達には 旧態依然の思想が残っており、正義のために戦っているはずの米国、共産圏化を目論む中国やソ連、逃げ出したはずでありながら、居残るフランス等々の考えの違いを見せられる。
で、4番目の追加は チャプター18と32などに見られるカーツ大佐の思考・本音の一部を映像としてハッキリ表した点
つまり、この4番目の追加部分にある事が この作品の本筋であり、先に挙げた3つの追加が本来 それを補うべきエピソードだったわけで、それらが欠けていたから そこをファン達が妄想し、考察し合って理解していた事になる。
しかしね、今だから率直に言うと 1979年に公開された直後、このピースが欠けたジグソーパズルの様な映画を見た者の多くは 先にも述べた様に「ヘリの凄い映画」という認識で終わってしまい、さもなくば「ダラダラとただ 訳の判らない長ったらしい映画」なんて感想だったりで、ごく一部のマニアめいた人が「これはベトナム戦の真実に目を向けた秀作」と高く評した。
だが、当時、私はこの映画を「面白い」とは思ったけど 一部のマニアみたいに深い考察を巡らそうとは考えなかった。
それは「純粋に戦争映画として」深く考察するのは 私も大好きだし、そういう人も多かったけど、この作品の場合は 学生運動上がりや、反米思想の持ち主達から格好のネタとして利用され、考察も「如何にアメリカが醜悪か?」みたいな部分にだけ どんどん深くなる傾向が強かったからだ。
それは、あたかも学生運動が盛んで「マルクスの「資本論」を理解出来ないのは馬鹿の証拠」と言わんばかりに「俺は頭が良いんだ」という部分にだけ妙にプライドの強い学生達が「マルクスが「資本論」で説く「共産主義社会」こそが理想郷」…みたいな理論を展開して学生運動を行っていた様に
「地獄の黙示録」を正しく理解出来ない奴は戦争を語るな…みたいな風潮に辟易したからである。
しかし、年月が過ぎ、そんなクダラナイ思想に横槍を挟まれずに まったりとピースが補完された「地獄の黙示録・特別完全版」を見て 私は満足できたけど、この作品を 今後、「初めて見ました~」という若者達は 教科書では教えて貰えない、下手すると いまだ、共産主義汚染が根深く残る日教組の組合員共の洗脳教育を受けて この映画を正しく解釈できるのか? 私は、少々 不安に思う。^^;
クラヒー!! ブタネコさん、ご無沙汰です。私も『地獄の黙示録・特別完全版』を劇場で観て、大いに感動した口ですが、往年の『地獄の黙示録』マニアにはあまり評判が芳しくないですね(苦笑)。コッポラ監督自身が、「特別完全版こそ、唯一、本当の『地獄の黙示録』だ」という発言をしているものの、一度銀幕に投影されたが最後、作品は監督個人のものではなくなってしまいます。ファンにとっては、いたって当然のことながら、「自分の『地獄の黙示録』」を選ぶ自由がありますね~(笑)。ちなみに、私は追加されたエピソードの中では「フランス人の農園」が最も秀逸だと思います。「アメリカ人はいったい何のために戦っている?」という質問こそ、『地獄の黙示録』の謎を解くキーワードではないでしょうか。
反対に、サーフボードを盗まれたキルゴアが返却を求めて、ヘリでウィラード達を追跡するエピソードはカットされて当然かなぁと・・・。あのシーンでキルゴアの狂気と硬派なイメージが少々崩れてしまいました(笑)。
FORREST
★ FORREST さん
う~ん、私は いっそのことプレイメイツのエピソードは ゴッソリ無くても良かったような気がしました^^;
>「アメリカ人はいったい何のために戦っている?」という質問こそ、『地獄の黙示録』の謎を解くキーワードではないでしょうか。
興味深く感じたのは その
「アメリカ人はいったい何のために戦っている?」
という質問に対しての アメリカ人の置かれた立場の違いによって答えが変わるとこだと思うんです。
たとえば、その質問を アメリカの 政治家、マスコミ、前線の兵士、ペンタゴン、それと一般の国民…等々 それぞれの答えの違いのバラバラさが ベトナム戦争を如実に表している様な気がするのですが 如何でしょう?